最初の就職はスイミングスクールだった
そのスイミングの選手クラスの集まりに呼ばれて行って来た
話はいつの大会では誰々がどうした
海外遠征のプールの違い 水の違い
コーチに殴られた どれだけ怖かったか
そんな話ばっかり もうそんなのばっかりだ
かつての少年少女も40過ぎである
あんたら他に喋ることないんかいな
こんな仕事をしてきたくせに私は体育会系が大嫌いである
ワンパターンの思考
話に幅も奥行きもない
ユーモアに無縁
脳みそが暑苦しい
うっとうしい程思考が勝ち負け
友達が宝物と恥じらいもなく公言する
自分のしてきたことを全肯定
うんざりが脳を圧迫し もう勘弁してぇなと思っていた時
先輩のコーチが
「あれだけ辛いことをやってこれたって言うのはほんまに凄い
ああいう経験をしてる人間は社会に出ても違う
どんなことも耐えられる強さがある」
とのたもうた
もう我慢の限界だ
「それは違うでしょ
社会においての一番の問題は人間関係ですよ
そこで神経をやられて壊れてしまうんです
鬱での自殺が特出しているのが何よりの証明でしょ
スポーツをやっていた人間は肉体的な我慢はいくらでも出来るでしょうけど
それと社会生活とは別と思いますよ」
と言ってしまった
「いや 一緒や あの辛さを乗り越えたんや
どんなことでも乗り越えられる精神に出来上がってる」
と暑苦しい
ああそうでっかと言えばいいものを私は
「それで出来上がった脳が万能とは思い上がりでは?
社会生活における思考はそういうものと違う次元にあると思います
逆に勝ち負けにこだわる分 
社会では難儀な人に分類されるんとちゃいますか
プライド高い分 落ち込みも激しそうやし」
と食い下がった
「いや そんなことはない」
と相手が言った時
「先生 黙ってたんですが 実は僕
欝で去年の9月から会社半年休職してたんです
何度も自殺を考えてヨメや子供にどれだけ泣かれたか分かりません」
そう言った彼は
当時のバタフライの記録を全て彼の名前で塗り替える程の
スイミング稀代のホープであった
コーチ陣の彼に注ぐ期待は生半可ではなかった
あのスイミングを背負っていた程の選手だったのだ
その彼が欝で休職である
一同しーーーーん
その後 件のコーチが
「自分の職場が恵まれてただけかもしれんな」
と言った
いやいや あんたは職場の人間を鬱にさせる側の人間やで
と言いそうになるのをぐっと堪えた
当時のコーチの半数は離婚 
一人は選手のおかんと出来ての離婚だそうだ
選手も何人も離婚していた
新地の女に騙されてすっからかんになった馬鹿もいた
なにがどんなことにも耐えられるやねん
自分が泳いでる水槽の大きさを知らんあほやがな
体育会系の思い込みの激しさはこれやからかなわん