若い頃スイミングスクールに勤めていた
選手クラスになると 
親の方が必死で 
ノートとストップウォッチ持参し
必死の形相で2階から我が子を見つめていた
親はコーチに日頃のお礼のつもりか
贔屓のお願いか分からないが よく接待を受けた
吉山さんと言う
土建屋の大金持ちの奥さんがいた
息子はあまり早い選手ではなかったが
熱心に毎日見に来ていた
その吉山さんからお誘いを受けた
その日吉山さんは
物凄い毛皮のロングコートを着ていた
「きゃぁすっごーい!格好いい!」
と私
すると
「ロシアンセーブルやで
2500万やで」
と言った
あの頃は2500万円で家が建った
吉山さんの運転するベンツに乗り
先ずは吉山家に
大邸宅であった
そりゃぁ見せたくもなる
池には田中角栄が飼っていた様な鯉が数匹泳いでいた
応接間でお茶を飲み
「さぁ 行こか」
とまたベンツに乗った
連れて行かれたのは
生まれて初めて足を踏み入れた新地
確かデボンと言う名のステーキハウスであった
もっと食え もっと食えと次々注文し
肉の味さえ分からなくなる程食った
彼女は6万円を払っていた
一回の食事に二人で6万円
若い私には理解不能な世界である
その後
これまた生まれて初めてである
エステに連れて行かれた
体中何か得体の知らないモノを塗りたくられ
マッサージをされた
緊張するばかりで心地良さなど味わう余裕もない
こんな体をマッサージして戴き
ただひたすら申し訳ない気持ちであった
そして終わった後は心身の疲労でクタクタである
こんなモノにお金を払う人の神経が私には分からない
気を使って体を硬直させ
すみませんすみませんと言い倒し終わる
私にはエステは生涯無縁である
あれも高かったんだろうなぁ
そして帰り際
タクシーを捕まえ
一万円札を私の手に握らせた
最初で最後の豪華絢爛の体験であった
この大晦日
テレビのニュースで黒門市場の賑わいを映していた
一人のスッピン色黒の婆さんのインタビュー
「ブリやら数の子やら買うたで
なんやかんやで10万使うたわ」
紛れもない吉山さんであった
テレビに向かって私は叫んだ
「吉山さん!!!!」
婆さんになっても吉山さんのままであった
聞かれてもいないのに10万使うたでと言う
恐らく品性など
生まれて一度も気にかけたことがないであろう
家一軒分の毛皮を着ていた吉山さん
しかし持って生まれた魅力なのか
彼女から嫌らしさを感じた事は一度もなかった
「ひゃー すっごーい へー」
私はこんなことばかり言っていた
剥き出しの成金
それなのにくすっと笑える
存在がギャグなのである
可愛気がそうさせるのであろう
叶姉妹と吉山さんは私の中では同じイメージだ
吉山さんにテレビで会えて嬉しかった