女に生まれて損をした事は計り知れない
女に生まれて得した事は記憶にない
車を運転していていつもの道を通ろうとしたら
道を塞ぐようにセルシオを止め
トランクを開けて荷物を運んでるおっさんがいた
謙虚な私は
「通して戴けませんか?」と言った
おっさんから返って来た言葉は
「違う道あるやろ」である
敬語を使った自分を呪った
「え?今何言うた?え?もういっぺん言うてみ
ここはおっさんの私道か」
と丁寧な言葉使いで聞き返す
おっさんは
「見たら分かるやろ 荷物下ろしとるんや」
である
「おっさん あほか
車をもっと端に着けて荷物下ろしたらええんとちゃうんかい
何でおっさんのヘタな止め方でこっちが遠回りせなあかんねん
よう考えてモノ言えよ このボケ」
おっさんは「何やと誰がボケやねん」と近付いてきた
「おっさんしかおらんやろ 周り見てみ他に誰がおるねんボケ」
おっさんはくるりと背を向け荷物をマンションに運び始めた
私は車を止めて近くの交番所に行き巡査を連れて来た
巡査がおっさんに注意すると
「僕が荷物出す迄ちょっと待ってと言ったんですが
この人が喚き出したんですわ」
とぬかしやがる始末
もう通行人にじろじろ見られようがどうでもいい
「なんやとこら 嘘つくなよ
違う道行け言うたん誰やねん さっき言うた事も忘れたんかい
その頭病院言って診てもらって来い」
巡査はおっさんにこの人に謝りなさいと言う
おっさんは胸のポケットからタバコを取り出し吸い始めた
そして「悪かったな」と言った
「なめとんのんか おっさん 何タバコ吸うとんねん 
何処の世界にタバコ吸いながら謝る人間がおるねん
それでいえいえどういたしましてと言う人間連れてこんかい」
と私が発狂してると
まぁまぁまぁと私を抑える年配の巡査
「そらそんな態度で謝ったって許してもらわれへんわ
誰かて怒るわ 悪いのはお宅やねんからきちんと謝らんと」
そう言われておっさんは「ほな すんませんでした」
頭は上げたままである
怒髪天に達した私の肩を巡査はぽんぽんと叩き
「もうこれでよしとしましょうな
ほんでちょっとこっち来て」と手招き
「世の中おかしな人間が多いんやから
相手にして何かあったら損するのは奥さんやで
今日び何持ってるか分からへんのやし
物騒な事件多いんやから
おかしな人には相手にならんと違う道行った方がええよ
そやけど奥さん 血の気多いなぁ」
と言われてしまった
不条理である
そもそも私が屈強な男であったなら
「おっさん 道空けんかい」
と言っただけでこの問題は解決している筈である
第二に血の気が多いのに男女差は無い
当然の抗議に対して巡査に女だてらにと言う態度であしらわれる
しかも何で奥さんやねん お嬢さんと言いなさいお嬢さんと
ちんちんが付いているだけで嫌な経験を回避出来るのである
女に生まれて良かったと思える筈がない
ボブ・サップの様な男に生まれてきたかった