私が学生の頃はスノーボードと言うシロモノは存在せず
スキーこそが冬の代名詞であった
初めてのスキーは近大に通う知人が催す長野のツアー
そこで私は俗に言うスキー場マジックにひっかかったのである
一緒に行った滅茶苦茶滑るのが上手い男がいた
初めてスキーをする私にはスキーウエアのセンスなど分かるはずもない
スキーが上手いだけで格好良く見えてしまう
直角に見える雪山から滑り降りて雪を舞い上げてシャッと止まる
もうそれだけでス・テ・キなのである
初心者の私に手取り足取り教えてくれる姿は神であった
後光すらさしていた
ツアーが終わる頃に二人で会いたいと言われた時には舞い上がった
約束の日が待ち遠しくて仕方が無かった
そして約束の場所へ行った
そこにいたのはスキー場とは別人の男であった
い 今時どこで売ってるん そんな服
あの滑ってる時の格好良さはどこ?え?
今でこそ人間は中身だと言えるが
それも年を重ねてこそ分かると言うものである
学生の分際ではそんな一歩踏み込んだ思考能力は持ち合わせる術はない
「だ だっさー」
そればかりが頭の中を駆け巡り早く帰りたかった
一緒に歩く姿を誰かに見られたら辛い
相手の気持ちなど一切お構いなく若くて性悪で最低な私は
良心のカケラもなく次の約束を断ったのである
かくも残酷な思い出である
私にとって白馬に乗った王子様のはずであった
しかしよくよく考えてみればそんな男が私に声をかける筈もない
身の丈にあった男なのである
自分をなんぼのもんやねんと気付くのは
そういった経験を積んでからである