小学生の頃あだ名のつけ方はとにかく容赦が無かった
肉体的な特徴をそのままあだ名にする事が殆どで
太っている子には男はブー太郎 女はブーちゃん
他に絶壁 がに股 くせ毛の子にはチリ毛またはタワシ 
鼻の穴の大きな子はボタン 色黒はタドン 
今なら登校拒否や自殺の原因になってもおかしくは無い
いちいち反応したり泣いたりすればもっとひどいあだ名に変えられる恐怖からか
それともそんなあだ名如きに気にも留めなかったのか皆呼ばれれば返事をしていた
しかし美人にはあだ名が付かず名前や苗字をそのまま呼ぶと言った
あからさまな差別が平然と行われていた
子供の頃から不条理を叩きこまれたのである
私はあごがしゃくれて尖っていた為 あだ名は猪木であった
猪木はスーパースターであったから名誉と言えば名誉かもしれないが
呼ばれて嬉しい程では無い むしろ逆である
出来るならば苗字で呼んでくれと願っていたが
彼らが苗字で呼ぶランクの人間で無い事も十分承知していた
しかしある日「お前の顔石鹸に描いてたで びっくりしたわ」
と言われた 
「石鹸て何」と聞く私に「花王石鹸やんけ」
そしてその日から私のあだ名は猪木から花王石鹸に代わったのである
だが猪木に比べれば花王石鹸の三日月マークは月とすっぽん
なんと垢抜けてスマートなトレードマークではないか
私にすれば富士山の七合目に一気に来た様なものである
このペースなら苗字で呼ばれる日は近い 
頂上はすぐそこだと思いながら「花王石鹸」「何」と返事をしていたが
卒業する日までただの一度も苗字で呼ばれる事は無かった