勤めていた頃の帰りのラッシュ時のことである
スーパーで買い物した袋を持って満員電車に乗る
片手で袋を持ち片手で本を読んでいた
次の駅でも人が乗り込んで来るから押されて体が自動的に動く
すると突然私の足が蹴られたのだ
一瞬何が何だか分からなかったがすぐに蹴られたと気付いた
私の蹴られた足の位置に座っていたのは小学6年位の男の子である
少年ジャンプを持って私を睨んでいる
瞬時にコイツには勝てるという意識が働いたのだろう
「何すんねん!」の言葉と同時に
持っていた本で思いきりそのガキの頭をぶん殴った
「荷物当たったやろ」だと
そしてもう一回私の足を蹴ったのだ
私も今度は無言で前回の5倍位の力を込めてぶん殴った
「殴んなや」
だと
私はそのガキの首根っこを掴み
「次で降りなさい このまま帰れると思ったら甘いよ」
と言った
親を呼び出してボロクソに言ってやるつもりでいた
それとこんなガキを育てた親の顔を物凄く見たかったからである
そ それなのに
そのガキは
「放せババァ」と私の手を振り解き
混雑の中逃げて行った
「待ちなさい」と言ったがガキの姿はもう無い
あるのは私を見つめる大勢の乗客の顔だけであった
私の降りる駅迄あと二駅
何事も無かったような顔をして本を読もうとしたが
ハードカバーのその本は折れて曲がって開く事が出来なかった
くそ あんなガキの為に本がこんなになっちまった
伸ばして開いて本を読む振りをしたが頭に入る訳がない
乗客の視線が私のうなじにビンビン突き刺さってくるのだから
こんな事の後で周囲の目を全く気にしない素振りをすることは至難の技である
駅に着くまでの長かったこと
しかし悔しいのは逃げられたことである
油断していた自分が物凄く悔しい
小学生にムキになってる恥ずかしさなんて私には微塵も無い
生まれついての大人気無さは自覚済みである
ただ絶対に勝てる相手だったのをみすみす取り逃がした事が
何より悔しくて今でも時々そのガキの顔を思い出すのである