母は気の毒な程下手であるにも拘わらず
無類の麻雀好きである
そして当然の如く私のカモである
あまりに負けるために
心優しい娘の私は一回の負けの上限を
1万円と決めてやった
いくら負けても1万円以上は払わなくてよい
気配りとはこういう事を言うのである
連れ合いの収入不足を麻雀で補う
来月連れ合いとパリ・ロンドンに行く
旅行代を稼がなければならない
そんな時に
母が家でこけて歩けないと行って来た
連れ合いに抱いてそっちに連れて行ってくれと言う
病院に行かず麻雀をするのだと言う
途中トイレにも連れ合いが抱いて連れて行く
そんな異様な状況で麻雀をした
そして母はいつもの様に一万円を置いて
連れ合いに抱かれて帰って行った
昨日やはり痛みが取れず病院にしぶしぶ行くことになり
また連れ合いが抱いて行った
結果は股関節骨折で手術である
明日から入院と決まった
玄関が開き連れ合いが帰ってきたが
その腕の中にはしわくちゃの婆さんがいる
「麻雀するんやって」
と連れ合いがほとほと呆れた顔で言う
「明日から入院で次いつ出来るかわからんやないの
どうせ今日痛くて寝られへんのやし
麻雀でもせんとやってられんわ」
とぬかす
やってられんわはこっちのセリフである
骨折して明日から入院するババァが麻雀するか
しかし心優しい娘は
母の希望を優先してやる
次にこの婆さんから搾り取れる予定が未定なのだ
最後の一万円になるかも知れぬ
麻雀の間中 母はぼやいていた
入院は嫌だ 憂鬱だ
いつ退院出来るんやろ 歩けるんやろかと
私は来月の旅行のお小遣いを貰うつもりでいたから
あんたが入院してる間に旅行行くんやから
今日お小遣い置いていけと言うと
母はそれまでに退院するから
帰ってきてからやると言う
我々の出発は6月11日である
それまでにこの婆さんは帰ってくるつもりらしい
いい年をして小遣いをせびる私もどうかと思うが
この母にしてこの娘なのだ
当然の図式であろう
明日からしばらく無収入になる私は
最後に親の役満で閉めた
母はまた一万円を置いて
連れ合いに抱かれて帰って行った