今では絶滅した「ぶりっこ」が
私の若い頃はたいそう重宝されていた
言い換えれば男にモテていたのである
ふわふわした髪型にして上目遣い
肩をすくめてにこっと笑う
無駄な事を言わずただ肩をすくめてにこっと笑う
そんな女が降って沸いた様にそこかしこで見られた
なんであんな気持ちの悪い女がいいのか
全く男はバカである
初めはそう思っていた
しかしどんなブスでも「ぶりっこ」であれば
男がついていた
なんでやねん
自慢じゃないが私は男にモテた例がない
冷静になって自分自身を分析してみた
下劣な話が何より好きである
思った事をストレートに口にしてしまう
声がデカい
笑い声が強烈に下品である
間が怖いから喋り続けている
生まれてこの方恥ずかしいと思った経験が無い
膝を揃えて椅子に座る事が出来ない
男にモテるファクターが何一つ無い事に気付いた
ここは一つ「ぶりっこ」で勝負に出るかと
男友達からの紹介で捕まえた男の前で別人となった
同志社大の3回生である
最初のデートは比叡山へのドライブ
私は終始無口で通した
何を聞かれても肩をすくめてにこっと笑う
うつむき加減で話す
上目遣いも必須アイテムである
笑い声にも細心の注意を払い
下品な話なんて生まれてこの方した事がないかの様な顔をした
やっている事のアホらしさに泣きたくなったが
男にモテる為の試練であると己に言い聞かせ
男に負けない程の広い肩幅をすくめて微笑んだ
この男を好きかどうかさえ分からない
デートを楽しむなどそんな余裕は全く無く
ただ別人に化ける事に必死であった
「ぶりっこ」として3度程デートをした
男友達から呼び出され下宿先に行くと
「あのなぁ あいつあんまりお前が無口やからしんどい言うてな
オレにもう無理や言うてくれと頼んできよったで
アイツが無口のワケないやんけって言うても
大人し過ぎて話が合わんて言いよった
そんな話信じられると思うか?お前が無口やなんて
うんこやチンコの話しかせんお前が無口ってか?」
この男にそれは本当だと言い
男は「ぶりっこ」が好きとちゃうんかい
そやから私は捨て身で勝負に出たんじゃと言った
返ってきた言葉は
「アホか」であった
男に好かれる為に自分を偽り
偽った姿を嫌われ振られる
喜劇である
男なんて 男なんて
バカヤローーーーーだ