もう10年も前の話である
連れ合いの友人に癲癇の発作が出る息子を持つ男がいた
発作と言っても赤ちゃんの頃の話で
年に一度脳波の検査を受ける程度のものであったらしい
小学一年のその末っ子をヨメは溺愛し
その溺愛振りは目に余る程であった
上二人の息子やダンナの事は眼中に無く
小学生のその息子にいつまでも赤ちゃん言葉で話しかけ
気持ちが悪いオンナだといつも思っていた
私に話す時にも「けいくんがね」と言うのである
人に話す時にくんをつけるな くんをこのバカ
と思いながら相槌を打ってやっていた
ある日その友人から電話がかかり
連れ合いが「けいくんが死んだ」と言った
何でも母親が外出中に父親と風呂に入り
先に上がった父親が遅いと風呂を覗くと沈んでいたそうである
ガムを食べながら入っていたからそれを詰まらせたらしいと
通夜でのヨメは半狂乱で小さな棺にすがっていた
顔は妖怪であった
兄弟も声を上げて泣いている中 
その友人は淡々と客に頭を下げていた
その姿が痛ましかった
その後連れ合いが友人宅に行ってもヨメが
「アンタが圭くんを殺した」とずっと友人をののしり
あいつが気の毒だと言っていた
そして息子が死んだ六日後
今度はヨメから連れ合いに電話があり
「すぐ来て」と言われ青い顔をして連れ合いが飛んで出て行った
帰って来た連れ合いが
「自殺しよった」と言った
ベッドに紐をかけて座ったまま死んでいたそうである
見つけたヨメは紐もほどかず連れ合いに電話をし
連れ合いがひもをほどいて寝かせたそうである
そして死んでいる友人に向かって
罵詈雑言を浴びせていたそうである
もう死んでるんやから許してやったらと言う連れ合いを無視し
アンタは最低の男と言い続けていたそうである
通夜ではヨメも息子も驚くほど平然としており
誰一人泣く人間はいない
息子の時は通常の通夜であったのに対し
友人のそれは密葬であった
自殺だからだそうだが 関係あんのか
私はヨメの仕打ちに耐え切れずの自殺と思っていたが
友人は自営の会社が不振で借金が膨れ上がっていたそうである
連れ合いが言うには
けい君が死んだんはあいつが殺したんやと思う
間違いない
自殺でも保険金が出るのを知って
最初から自殺するつもりで
ヨメの溺愛する息子を殺すことでヨメに復讐したんやろ だ
うっそー 安もんの小説みたいやん
癲癇の息子悲観して殺したんとちゃうのと聞けば
そんなもん大した事なかったやろ
年に一回の検査で済む程度やねんから
と言う
それに考えてみ
小学生がガム詰めて死ぬか?
その前に風呂から出て親に助けを求めるやろ
検死解剖も何にも無かったから分からんだけで
ガムなんかあいつがついた嘘やと思う
あれはヨメに対する最大の復讐やでと普通に喋る連れ合いに
私の方が腰を抜かしそうになった
保険金は1億円出たそうである
何も分からないと会社の残務処理をその馬鹿ヨメは
全て連れ合いにさせて分かった事である
借金を保険金で清算するつもりであったろうその1億円は
ビタ一文使われる事なく
全部ヨメがガメてしまった
その借金の中には夫婦で頭を下げて拝み倒し
頭の悪い連れ合いが断りきれずに貸した200万円も入っている
友人の死後全ての事を手伝って来た連れ合いに対し
このオンナは借金を踏み倒すという荒業で返したのである
私に手ぶらで帰って来るなとケツを蹴られる連れ合いは
何度もこのオンナの所に通ったが
弁護士が返済の必要ナシと言ってるの一点張りだと
うな垂れて帰って来る
この男のバカさに私の方が泣きたくなった
その後何の連絡もなくこのオンナは何処かに引っ越してしまった
死んだ息子の名前でスナックを始めたと風の噂で聞いた