学生の頃 喫茶店でアルバイトをしていた
そこはマンションの一階にあり
マンションに限って出前を受けていた
「足立さんやわ 出前行ってきて」と言われ
何も知らずにお盆にコーヒーを乗せてインターホンを押した
「中に入って 開いてるから」の声がし
ドアを開けると真っ赤な絨毯が部屋中敷き詰められ
大きな壷や彫刻が置かれている
一瞬で一般家庭ではないことがバカな私にもわかった
「ここまで持って来て」の声の方を見れば
上半身裸
と言うより出ている部分全て刺青の小柄なおじさんが
背中を向けてあぐらを組んでいた
自分の心臓がバクバクしているのが聞こえる
失礼しますと入る私に
「新しい子やな」とゆっくり振り返る
振り返ったその顔は非常に男前で品のある顔立ちであった
そしてそのあまりの見事な彫り物に恐怖は感嘆に変わり
「綺麗ですね」と思わず言ってしまう
「そうか 有難う」
背中だけですかと聞けば全身だと答え立ち上がった
見れば手以外に肌色はなかった
私の目は点である
「見たいか」と聞かれた
ちんちんがどうなっているのか非常に興味があったが
そのまま襲われたらと言う恐怖から辞退した
店に戻り刺青の話をすると
「親分さんやもん そら立派な刺青のはずやわ
あの人の娘さんタカラジェンヌやねんよ」と教えられた
刺青は立派だが自分の父親だったらと思うとちょと辛い
それから何度かコーヒーを届けに行ったが
刺青をさらけ出していたのはあの時だけで
いつもきっちりとしたスーツ姿であった
高そうなスーツを着た足立さんは紳士であり
ヤクザの親分なんかには到底見えなかった
墨の色が落ちると色を足す事や
娘さんの事を聞いた
中々役がもらえず厳しい世界やと言っていた
その他大勢の踊っている中の一人だそうだ
ヤクザの親分でもこればっかりはどうしようもないらしい
その後暫くして足立さんが死んだと聞いた
全身刺青のせいで内臓がやられていたそうである
あの時ちんちんに刺青彫っているのか
見せてもらっておくべきだったと後悔した