入ってどうするつもりやねんと
住んでる本人が首を傾げる程の家に2度泥棒に入られた事がある
一度目は押し込み強盗である
朝起きたら台所のガラス窓が開いていた
昨日開けっ放しで寝たのだと思った
しかし床に足跡がいくつもある
誰やねん 靴のまま歩いたんはとまだ私は気が付かなかった
足跡をたどると私がさっきまで寝ていた場所まで続いていた
連れ合いを起こし
この足跡は何やと思う?と聞く
泥棒やんか これと声をあげた
突然足元が震え出した
泥棒は入ったはいいが私が寝ていた為に逃げ出したのだ
美しい寝顔に見とれる事なくお帰りあそばしたのである
犯してやろうかとも思われなかった事が情けない
警察が来て
「奥さん 寝てて良かったなぁ
起きたらエライ目にあわされてたで」
泥棒が至近距離に来ていて熟睡している
これは喜ぶべき事か
アホ丸出しではないのか
その後が悲惨である
指紋をとる為に家中粉をはたかれるのである
これが厄介なシロモノでちょっとやそっとでは取れないのだ
何か取られた物はと聞かれても
普段から泥棒が入った後の様な家である
何が無くなっているのかなんて分かる訳がない
当然金目の物など皆無の家である
割られたガラス代が腹立たしい
犯人は分からずじまい
二度目は夕方帰って来たら
リビングの大きなガラス窓の鍵のあたりを割って
俗に言うピッキングと言う手法で開けて入られていた
取られて困る物は何一つ無い
何を取られたかを探す必要も無い
しかし大きなガラス代が何より痛かった
一度目の粉はたきの煩わしさを思い出し
警察にはもう連絡しなかった
どうせ捕まりはしないだろうし
それから何年か経った頃 家に刑事がやって来た
「お宅に入った空き巣が捕まりました」
「どっちですか」と聞けば
手帳を取り出し「南東のリビングのガラス窓から入ったと言ってます
どっちですかてまだあるんですか」
と聞かれ一度目の泥棒の説明をした
その刑事は何度も
「奥さん 寝てて良かったなぁ」と言った
もうええっちゅうねん
私がその空き巣がどんな人間かと聞けば
60歳で300件の空き巣を白状したと言う
そして驚いた事にその300件全部
どこから入ったのかを覚えていると言う
300件の中の南東のリビングから入って
一切金目の物の無い家の事まで覚えているのである
いや それとも金目の物が無い唯一の家だから
腹立たしさ故に覚えているのか
いずれにしてもその記憶力を他に生かせなかったものか
ガラス代は請求出来るんでしょうかの私の問いに
刑事は「それは無理です」
と冷たく言い放った
そして帰る時に
「そやけど奥さん ホンマに寝てて良かったなぁ」
とまた言った
全然嬉しくない